はじめに
美濃加茂市の古井町に天狗山と言われる小高い所があります。
その昔はここを、竹ケ鼻と呼んでいたそうです。
現在、この天狗山には天狗を神様とする荒薙教がありますが、
例によって、このお話は何ら関係がありません。


上古井村の美濃吉は、まだ十歳だと言うのに 背の高さは6尺(約1.8m)もあり
体重はなんと30貫(約120キロ)もあるそれはそれは大きな子供じゃった。
そんなずうたいなので、いつもいつも「おっかあ はらへったよ〜」って言っておった。
なにせ おひつ一杯のご飯と、おなべ一杯の汁をペロリと食べてしまい、
その他にも芋やらとうもろこしやらをパクパクたべておった。
その代わりと言うか、チカラだけはそんじょそこらの大人でもかなわない。
この前なんかは牛車がぬかるみにはまってしまって身動きできないのを、
牛ごと抱きかかえてそのぬかるみからだしてしまったし、
庄屋さまの家の普請の時なぞは、お蔵ごと担いで動かしたほどじゃ。

この上古井村は年に一度すもう大会があるんじゃけんど、
いつも美濃吉は一番じゃった。
だが今年は噂を聞きつけ、大田村や加茂野村、
はたまた勝山や遠くは久田見村などからも力自慢の男たちが集まってきたんじゃ。

子供ずもうから始まり、取り組みが次々とすすんで美濃吉の取り組み頃になると、
あちこちにちらばっていた人々は土俵の周りにどんどん集まってきたんじゃ。
なにせ今年はよその村の強力男が幾人も美濃吉と勝負しに来ておったからじゃ。
この男たちをみて今年の美濃吉は一等にはなれんじゃろうと誰もが思っておった。
じゃがひょっとかすると・・と言う気持ちもあったので、
皆固唾を飲んで待っておったんじゃ。

美濃吉の名前が呼び出されると人々から一斉に大きな拍手と喚声があがったんじゃ。
最初は久田見村のヒゲ男じゃった。行事の軍配がかえったと思った瞬間、
久田見村のヒゲ男は土俵の外に吹っ飛んだのじゃ。
村の人々は美濃吉のあまりの強さに少しばかり恐ろしさを感じるほどじゃった。

一等を決める最後の勝負はさすがに大勝負じゃった。
大田村の剛の助は美濃吉よりさらに1尺も高い7尺の背丈で
しかも体重はゆうに40貫(150キロ)を超える大男じゃった。
二人はグっとにらみ合った後、一気にたって組ずもうとなったんじゃ。
どちらもゆずらず長い時間がたったみたいじゃが、
スキをみて剛の助が美濃吉を土俵の縁まで押し込んだ。が、
あっと思った瞬間に美濃吉は剛の助をうっちゃり土俵の外へ投げ出したんじゃ。
さすがの美濃吉もハアハアと大きな息をしておったが、
勝ち名乗りを受ける頃になるとニッコリと笑っておったんじゃ。
美濃吉は美濃の国では一番の力持ちとなったんじゃ。


近頃の美濃吉は竹ケ鼻の山の上に登ることが多なった。
竹ケ鼻は上古井村はもとより、
勝山・大田・土田・伏見・兼山・八百津・川辺等の村々を
見渡せとても景色のいい所じゃ。美濃吉はここに登り辺りをグルリと見渡した後、
大杉の下で昼寝をするのが好きじゃった。
村の人々はこの竹ケ鼻には天狗がおると言って誰も寄りつかなんだが、
美濃吉はあのとおりの力持ちじゃったからぜんぜん平気じゃった。

ある日のことじゃった。いつものように大杉の下で昼寝をしていると、
何処からか美濃吉を呼ぶ声がした。
目をあけると大杉の上の方の大きな枝の上になにやらおるではないか。
「お前は誰じゃ?」美濃吉は声をかけた。
すると、それはフワーっと木の枝から飛び降りてきた。
「お前は天狗どんか?」美濃吉が尋ねるとコクンと頷いた。
「天狗どん。おら、いっぺんおめえとすもうをとってみたかった。
どうじゃおらと勝負するか?」
美濃吉は天狗に尋ねると、天狗はニヤっと笑って頷いた。
「おらが勝ったらおめえのその高下駄をかしてくれるか?」
天狗は頷いた。
「よし!それなら勝負じゃ。」

・・・・・・・・

「天狗どん約束じゃ。ちょこっとその高下駄を貸してくれ。」
美濃吉は天狗から高下駄を借り、トンと飛び跳ねた。
すると美濃吉は大杉の大きな枝までひとっとびで上がりきった。
「やあこれはええ!」「今度はあの鳩吹山まで行ってみよう!」
美濃吉は又トンと飛び跳ねると、あっと言う間に鳩吹山まで行って戻ってきた。

「天狗どん。どうじゃ おらに負けて悔しいじゃろう。
もう一番、今度は蓑をかけて勝負じゃ。どうじゃ?」
天狗は頷いた。
「よし!もう一丁勝負じゃ。」

・・・・・・・・

「天狗どん。約束じゃ。ちょこっとその蓑を貸してくれ。」
美濃吉は天狗は隠れ蓑を借り、ひょいとはおった。
すると、美濃吉の姿はみえなくなってしまったのじゃ。
美濃吉はいたづら心を出して天狗の後ろからトンとつっついた。
天狗はキョロキョロ辺りをみまわした。
「ハハハ・・天狗どんにも見えないんじゃなあ。」美濃吉が隠れ蓑をぬぐと姿がみえた。
「天狗どん。2番もおいらに負けて悔しかろう。
どうじゃもう一番勝負するか?
その代わりおいらが勝ったらその羽団扇を貸してくれ。」
「よし!勝負じゃ!」

・・・・・・・・

天狗は3番つづけて美濃吉に負けてしまったのじゃ。
美濃吉は天狗から借りた羽団扇をヒョイをふると ゴーっと風が舞った。
面白がってどんどん振るとあたり一面嵐のように吹き荒れた。
天狗は高下駄や隠蓑と羽団扇を返してくれるようたのんだのじゃが、
知らぬ顔をして使っておった。あまりにもしつこく天狗が言うので、
美濃吉は天狗に向って羽団扇をヒョイっと振ったんじゃ。
天狗は上古井村の方までヒューっと吹き飛ばされてしまったんじゃ。


美濃吉は、高下駄を履き隠蓑を着け、羽団扇を手にしたのじゃ。
すると、なにやら鼻がむずむずしてきて、そのうちどんどん鼻が長くなり始めたんじゃ。
美濃吉はあわてて隠れ蓑と高下駄をはずそうとしたのじゃけれど、
ぜんぜんゆうことをきいてはくれん。
美濃吉の力でもってしてもはずすことは出来なんだのじゃ。
そればかりか美濃吉の鼻は長くなり、とうとう半尺(15センチ)くらいまでのびてしまい
なんと美濃吉は本当の天狗になってしまったのじゃ。


誰にもみつからず自分が思った所へあっという間に飛んでいけ、
羽団扇でヒョイとあおると、物にしろ人にしろなんでも思うようにできる・・・・・
美濃吉は得意になって使っておった。が、使うほどになんだか鼻が長くなるような・・・
そのうち村の人々から、竹ケ鼻には天狗が住んでいて,
時々村に下りてきて悪さをすると言う噂がではじめた。
事実、誰もいないのにご飯やおかずがカラッポになっていたり、
歩いていると後から肩を叩かれ、振り向くとだれもいない。
でも地面に高下駄の跡がついていたり・・・・と数をあげるときりが無くなる程じゃった。


ある日のことじゃった。
天狗になった美濃吉が大杉の枝の上で寝ころがっていると、
なにやら木の下のほうでボソボソ声がするではないか。
美濃吉はなんだろうと思い、枝からヒョイっと飛び降りた。
そして話し声のするところへ行ってみた。もちろん、
隠蓑を着ているので姿はぜんぜん見えなかった。

「じいさま 大丈夫か? 
後少しで山之上の治助どんの家じゃと言うのに、お前様が
村を見てみたいちゅうて、竹ケ鼻なんぞへ登るからこんだらことになってしもうたわ。」
「そんだらこと言うてもいまさらこのくじいた足はどうしょうもないわ。」
「けんど ここから見る景色はええじゃろう。」
「そったらのんびりしておって、日が暮れたらどないするんじゃ?」
「ええわい もう少ししたら痛みもひくじゃろうから。
こんな時、えい!って言って治ればええのじゃがのう。」
美濃吉はこの話を聞いていて、
{そうじゃのう えい!って言ってなおればそりゃええわな}と思っていました。
そして何気なく羽団扇をあおぎました。
!すると
「おい ばあさま 痛みがひいてしもうたわい。」「ほんとうけ?じいさま?」
「ああ 本当じゃとも 。ほれこの通り。」
じいさまは ピョンピョン飛び跳ねてみせたんじゃ。
「こりゃあ不思議じゃ。どうして急になおったんじゃ?」
「わしにも わからん。さっき えい!と言って治ればええがと思っちょった時からじゃ。
こりゃあ本当にありがたい事じゃ。」
「この大杉には神様でもいらっしゃるんかいのう?」
「そうじゃそうじゃ。神様でもいらっしゃるんじゃぞい。」
「ありがたや ありがたや。」
二人は大杉に深々とおじぎをして、去っていったんじゃ。

美濃吉は何か不思議な感じを覚えたんじゃ。
何とも言えない清清しさを感じたんじゃ。
この時までは美濃吉もこの羽団扇の本当の使い方を知らなんだのじゃな。
自分が思っていることが、
良いことにつけ悪いことにつけそのまま現れるちゅうことを・


次の日のことじゃった。昨日のじいさまとばあ様が、
山之上の治助どんを連れて竹ケ鼻へ登ってきた。
美濃吉はあいかわらず大杉の枝の上で寝そべっていた。
「治助どん おめえ持病の腰いたがあったじゃろう?いっぺん騙されたとおもって、
この大杉にたのんでみい。きっと痛みがとれるぞい。」
「医者へ行ってもなおらん。薬を飲んでもなおらん。
そんじゃいっぺんお願いでもしようかの。
大杉様どうぞおらの腰いたをなおしてくださられ。お願いしますだ。」

これを聞いていた美濃吉は、
{治助どんの腰いた直れ}と思い込み羽団扇を振ったのじゃ
「おお!不思議じゃ!腰の痛いのが治ったぞ!これこのとおりじゃ。」
治助は背筋をピンと伸ばし二人に話したのじゃ。
「それみい 不思議じゃろう ここの大杉には神様がおらっしゃるんじゃないかのう。」
「ありがたや ありがたや。」
これを見ていた美濃吉は、またまた清清しい気持ちになったのじゃ。
それになんだか鼻の長さが少し短くなったような・・・・


うわさが噂を呼び、あちらこちらから 困った人々が訪れるようになってきたんじゃ。
でも中には強欲な奴もいて、もっと金持ちになりたいなどとの願いの時は、
逆にとてつもなく重い鉄の塊を与えたんじゃ。

あれやこれやと美濃吉は忙しい毎日を送っていたんじゃが、
ある日のこと一人の子供がやってきて、おっかあの病気を治してくれるよう
願をかけたのじゃ。むろん羽団扇であおいでやってこれを治してやったのだが、
急に自分のおっとうやおっかあのことが気になりだしたのじゃ。
それで、ヒョイと上古井村の自分の家に行ったのじゃ。

おっとうとおっかあはいろりのそばで縄を綯っておった。
美濃吉はなんだか悲しくなってきたんじゃ。
天狗になっている自分を親には見せられない。
「おっとう、おっかあ」って声をかけたいのじゃがそれが出来ん。
美濃吉は泪を流しながら竹ヶ鼻へと戻っていったんじゃ


その日はもうすぐ嵐が来るちゅう事で、朝から風の強い日じゃった。
美濃吉はいつもどおり大杉の枝に乗っかってあたりを見ていたんじゃ。
すると、ふもとの方から一人の子供がこの竹ヶ鼻へ向かって登ってくるではないか。
こんな風の強い日に余程のことかなと思って見ていたんじゃ。

その子供は、この竹ヶ鼻のてっぺんにきてあたりを見回し、
「やあ やっぱりここからの眺めは最高じゃ。
おらは大きくなったら絶対一番になってやる。」
子供はそう言って大きな背伸びをしたんじゃ。それから大杉の傍にきて
その杉の木のまわりをグルグルと回っておった。
なにをするんじゃろうと美濃吉は見て居った。
その子供は急に上を向き、いきなりこう言ったのじゃ。
「そこにいるのは天狗どんじゃろ?」
美濃吉はびっくりした。
隠蓑を着ているにもかかわらず見つかってしまったからじゃ。
「おい 天狗どんここに降りておいでよ。」
美濃吉は大杉の枝からヒョイっと降りたんじゃ。そして隠蓑をはずしたんじゃ。
「ハハハ 大当たり! やっぱり天狗どんじゃった。」
「おいらのやまかんがあたったわい。」
「この山には天狗どんがいるって聞いてたから、
いるならこの大杉しかないと思っとったんじゃ。」


「天狗どん、どうじゃおいらとなぞなぞ遊びをしよ。
もしおいらが勝ったらその高下駄を貸してくれるか?」
美濃吉は退屈していたし、おもしろそうだったからコクンと頷いた。
「よし 天狗どん最初のなぞなぞじゃ。月とスッポンがすもうをとったんじゃ。
どっちが勝ったか?」
美濃吉は考えました。が、わかりません。降参するとその子供は言いました。
「ツキダシで月の勝ちじゃ。天狗どん、約束じゃちょこっとその高下駄を貸してくれ。」
子供は高下駄を履いてヒョイっと飛び跳ねました。
すると大杉の枝のうえまで上がりました。それから、
ひとっとびで伏見まで行って返ってきました。

「天狗どん もう一丁するか?」
美濃吉は悔しかったので頷きました。
「おいらが勝ったらその隠れ蓑を貸してくれ。」
美濃吉は頷きました。
「どこもぬらさないで、水の中に入るにはどうすればええかな?」
美濃吉は考えましたが、わかりません 降参しました。
「ハハハ 又勝ったぞ。答えはな 自分の姿を水に映すんじゃ。
そうすれば 水の中に入ったじゃろ。さあ 約束じゃ 
ちょこっとその隠れ蓑を貸してくれ。」
美濃吉は子供に隠蓑をかしてやった。
子供がその隠れ蓑を着るとぜんぜん姿がわからなくなってしまった。
後からチョイチョイとつつかれたが、まるでわからない。
子供は隠れ蓑を脱いでこういった。

「天狗どん 二つも負けでは悔しかろ。おまけにもう一番勝負するか?」
事実、美濃吉は悔しかったので頷いたのじゃ。
「おいらが 勝ったら その羽団扇をかしてくれ。」
美濃吉は頷きました。
「では 天狗どん 最後にわるのは なあ〜んだ?」
最後にわる?・・・・美濃吉は考えましたがわかりません。とうとう降参しました。
「ハハハ 又勝ったぞ 答えはのう おわり じゃ。

さあ 約束じゃその羽団扇を貸してくれ。」
美濃吉はしかたなくはね団扇を貸してあげたのじゃ。
チョコっとふるとそれは風になりました。子供が面白がって放さないので、
美濃吉は返してくれるよう言ったのじゃ。
すると 
突然その子供は美濃吉に向かって羽団扇をヒューっと振ったから大変です。
美濃吉は太田の村まで吹き飛ばされてしまったのじゃ。


・・・・・・・・・・

どのくらいたったんじゃろう 美濃吉は田んぼの中で目をさましたんじゃ。
それから 辺りをみまわし、自分の顔の汗を手でぬぐおうとした時じゃ。
{ない!ない!鼻がない!。}
天狗の時の美濃吉の鼻は半尺もあったろうに、
今は前と同じ普通の鼻になっておったんじゃ。
すぐ傍の溜池に自分の顔を映してみた。
前と同じ美濃吉の顔になっておった。
戻ったんじゃ。美濃吉は急いで立ち上がり、
一目散に上古井村の美濃吉の家に向かったのじゃ。
「おっとう!おっかあ。」
美濃吉は大きな声で叫びながらはしっていったのじゃ。

おしまい?


そう これでこのお話はおしまいじゃ。
うん?その後竹ヶ鼻がどうなったかって言うのかの?
美濃吉が急いで家に戻ってからしばらくすると、大嵐が来たんじゃ。
それで、あの大杉は風で倒れてしまったのじゃ。多分大風で倒れたと思うがの。
ひょっとかすると あの子供が羽団扇で吹き倒したかもしれんの。
うん?あの子供か?
さあ その後のことはわしは知らん。が、大杉も無くなって居る場所がなくなったから、
どこぞへ行ってしまったかもしれんの。
その後竹ケ鼻に天狗が出たと言う話を聞いたことがないもんなあ。
そんじゃあ このへんで さいなら

本当に終わり




                                           



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